2016年9月16日金曜日

デジタルビジネスのサービス品質改善の入り口となるインシデント管理のポイント(後編)

こんにちは、デジタルビジネスのシステム運営に関するコンサルティングを担当している河村です。
前回に続き、インシデント管理プロセスを実施する際のポイントについて書きます。


重大インシデントと通常インシデントでプロセスフローを分ける:
インシデントには、サービス中断に至るクリティカルなもの(重大なインシデント)もあれば、冗長化しているサーバの一つが壊れただけでサービス品質にあまり影響のないもの(通常のインシデント)もあります。これらの対応に同じプロセスフローを適用すると、重大インシデント発生時のサービスレベル要件に引きずられて非効率になったり、通常インシデント発生時のサービスレベル要件に対応がとどまりユーザーの満足度が下がったり、といった問題が起こります。

重大インシデントと通常インシデントの分類基準を明確化したうえで、これらの対応プロセスフローを分けて標準化することがポイントです。重大インシデント発生時の対応には、通常インシデント発生時の手順に加え、以下を定義するとよいでしょう。
  • 影響範囲や復旧時間に関するユーザーアナウンスの手順、頻度、実行責任者、承認者
  • 社内関係者への状況報告の実施手順、頻度、範囲
  • 事後のお詫び対応の実行有無を判断する手順、実行責任者、承認者


サービスレベル要件との整合性を確保する:
デジタルビジネスのITシステムでは多くの場合、高いサービスレベルが求められます。しかし、本来求められるサービスレベルに対して実態があっておらず、求められるサービスレベルを満たせなかったり、過剰なコストを払っていたり、といったことがよく見られます。以下に、その例を記載します。
  • 本来は24時間365日のサポートが求められるにもかかわらず、一部の作業を社員が実施しているため、夜間や休日は十分な対応ができない(ストレスもたまる)
  • 本来求められるサービスレベル以上のサポート体制でベンダーと契約しており、過剰なコストを支払い続けている
  • 24時間365日のサポート体制でベンダーと契約しているが、休日夜間問わず復旧作業の承認を必ず社員が行う手順になっているため、そこがボトルネックとなり実態はベストエフォート対応にとどまっている

こういったことを起こさないためには、求められるサービスレベル要件を定義したうえで、それに準じた契約をベンダーと結ぶ、社内の体制がボトルネックとならないよう手順化や権限移譲を進める、といった対応を行うことが有効です。


問題管理へのエスカレーション基準を定義する:
インシデント管理だけをいくら頑張っても、品質は上がりません。問題管理へとつなげ、恒久対応・再発防止を徹底しなければ、いつまでたっても楽になりません。担当者の意識に左右されないよう、どういう場合に問題管理へとエスカレーションするのかを明確化したうえで、それが徹底されているかどうかをモニタリングできるようなプロセスフローとツールを整備する必要があります。また、徹底状況を常に確認し、指導や是正処置を推進することに責任を持つ問題管理マネージャーを任命することも有効です。


KPIでパフォーマンスチェック:
定義したプロセスフローや基準が有効的・効率的に機能しているかどうかを評価し、改善を推進することが、継続的なプロセスの強化につながります。例えば以下のKPIを設定し、ツールから実績データをとれるようにするとよいでしょう。
  • インシデント発生から初動までのリードタイム(早いほどビジネス影響を小さくできる、ベンダーのパフォーマンス指標の一つ)
  • インシデントの一次解決率(同じようなものが何度もエスカレーションされるようなら、ナレッジ共有が不十分)
  • 復旧までの時間(短いほど、ビジネス影響を小さくできる)
  • 再発インシデント数(再発しているようなら、問題管理が不十分)

2016年8月31日水曜日

デジタルビジネスのサービス品質改善の入り口となるインシデント管理のポイント(前編)

こんにちは、デジタルビジネスのシステム運営に関するコンサルティングを担当している河村です。
前回はITサービスマネジメントの概要をご説明しましたが、今回はその中のインシデント管理プロセスをとりあげて書きます。


デジタルビジネスにおけるシステム障害発生のインパクト:
デジタルビジネスは売り上げや利益に直結するケースが多く、システム障害が発生した際のインパクトは膨大です。システムが停止すればユーザーがサービスを利用できなくなり、利用料・課金額の減少や、顧客満足度の低下、リピート率の低下といったことが起こります。中には1つのインシデントが1000万の機会損失につながると見積もられているケースもあり、障害を起こさないこと、起こしてしまった際にはなるべく早く解決することは、経営視点で見ても重要な課題です。

こうしたトラブルを極力減らし、ビジネスへのダメージを最小化するための組織的な改善活動を行うには、発生したトラブルに対して効率的かつ迅速に検出・分析・復旧対応を行い、きちんと記録を残して恒久対応(再発防止、未然防止)につなげる標準的な手法と手順が必要です。これに該当するのが、インシデント管理です。


インシデント管理とは:
インシデント管理についてはITIL®で目的や達成目標、活動内容がまとめられていますが、それ以外にもISO20000の要求事項(ITSMS)や、監査対応時の主なチェックポイントなども参考になります。以下にその概要をまとめます。


ITIL®におけるインシデント管理
  • インシデントとは、ITサービスに対する計画外の中断やITサービスの品質の低下、またはサービスにまだインパクトを与えていない構成アイテムの障害をさす
  • インシデント管理の目的は、通常のサービス運用を可能な限り迅速に回復させ、事業運営へのマイナスのインパクトを最小限に抑え、合意したレベルのサービスレベルを維持することである
  • 「通常のサービス運用」とは、サービスと構成アイテムが、合意済のサービスレベルおよび運用レベルの枠内で機能している運用状態として定義されている
  • インシデントに対する効率的かつ迅速な応答、分析、文書化、継続的な管理と報告のために、標準化された手法と手順を使用されるようにする 

ISO20000におけるインシデント管理の要求事項の例
  • 記録方法、優先度基準、分類、エスカレーションルート、解決・終了基準を定義した、すべてのインシデントに対する文書化された手順をもたなければならない
  • インシデントは上記手順に従って管理しなければならない
  • インシデント管理プロセスに関与する要員が、関連する情報(手順、既知の誤り、問題解決、CMDB)にアクセスし使用できることを確実にしなければならない
  • サービス提供者は、報告されたインシデントの進捗状況について、継続的に顧客に情報を提供しなければならない
  • サービス提供者は、重大なインシデントの定義について文書化し、顧客と合意しなければならない
  • 経営陣は、重大なインシデントについて通知されなければならない
  • 合意されたサービスの回復後、改善の機会を特定するために、重大なインシデントをレビューしなければならない

監査対応時のチェックポイントの例
(内部統制におけるIT全般統制、ITガバナンスにおけるシステム監査)
  • 規程・手順書・マニュアルなどが策定されているか、CIOIT部門長による正式な承認を受けているか
  • 規程やマニュアルが関係部門に周知・徹底されているか
  • 障害が発生してから対応が完了するまでの時間は適切か、対応作業に必要以上に時間がかかっていないか
  • 担当者のスキルに問題はないか、管理者の管理に問題はないか、手順書やマニュアルの内容に不足はないか
  • 障害発生時に適時・的確にIT部門長、システムオーナ部門長などに報告されているか、連絡の遅延が発生してないか
  • 重大な障害の場合には経営者への報告が適時に行われているか
  • 恒久対応まで確実に実施されるように障害報告書の書式になっているか
  • 委託先からの障害報告が適切・適時に提出されているか、障害報告の内容は適切か、障害報告の内容をチェックしているか
  • 障害の原因が委託先に起因している場合の対応について、定められているか


後編に続きます。

2016年8月23日火曜日

デジタルビジネスのシステム運営効率化に有効な「ITサービスマネジメント」とは?

こんにちは、デジタルビジネスのシステム運営に関するコンサルティングを担当している河村です。
今日は、デジタルビジネスのシステム運営効率化に有効である「ITサービスマネジメント」とは何かについて書きます。

ITサービスマネジメントの定義:
ITサービスマネジメントとは、事業のニーズを満たす良質のITサービスを実施および管理することを指します。ITサービスとは、顧客や利用者の視点から見たITを指し、その中には利用するITシステムに加え、それらを稼働させて利用可能にするためのあらゆるプロセスやそれを行う人・組織も含まれます。












デジタルビジネスの場合、ITサービスはデジタルビジネスそのものであり、事業のニーズとしてはビジネスの売上・利益目標の達成や、ユーザー満足度の向上などが当てはまります。


ITサービスマネジメントを実施する効果:
デジタルビジネスにおいてITサービスマネジメントを実践することで、体系立てられた手法に基づき、組織は以下の項目を実現することが可能となります。
  • サービスのユーザー満足度を向上させる(リピート率の向上)
  • デジタルビジネスのIT戦略を経営戦略と整合させる
  • デジタルビジネスのシステム運営の品質向上、スピードアップ、工数削減を継続的に推進する
  • デジタルビジネスのシステム運営のパフォーマンスを測定、モニタ、および最適化する
  • ITの投資と予算を管理する
  • リスクを管理する、IT統制やITガバナンスに対応する
  • ナレッジを管理する
  • ITコストを最適化/削減する

など


ITサービスマネジメントのベストプラクティス「ITIL®」:
デジタルビジネスにおいてITサービスマネジメントを実践する際には、業界で広く利用されているベストプラクティスである「ITIL®」を活用することが有効です。実際のシステム運営業務をITIL®に照らし合わせてギャップを分析することで、どこに問題があるのかを効果的・効率的に洗い出し、標準化に向けた対策をうつことができます。

ITIL®
ITサービスマネジメントの分野において、最も広く認知され、信頼されている、ベストプラクティス(成功事例)のこと。ITサービスマネジメントのための各種標準プロセスが記述されている。ITIL®の出所は英国商務局(OGC : Office of Government Commerce)である。日本におけるITIL®の普及促進を目的として、itSMF ジャパンが20035月に設立されている。


ITIL®の構成:
ITIL®は、サービス・ライフサイクルの5つの段階(ストラテジ、デザイン、トランジション、オペレーション、継続的サービス改善)で構成されており、それぞれに標準プロセスや機能が定義されています。


















次回からは、これらのプロセスや機能についていくつかピックアップし、デジタルビジネスで実践する際のポイントを解説したいと思います。

2016年7月11日月曜日

デジタルビジネスでITサービスマネジメントに取り組む適切なタイミング

こんにちは、デジタルビジネスのITシステム運営に関するコンサルティングを担当している河村です。
今日は、デジタルビジネスでITサービスマネジメントに取り組む適切なタイミングについて書きます。


昨今のビジネススピードは速く、デジタルビジネスのライフサイクルもあっという間に変化します(立ち上げから成熟化までわずか5年というケースも普通です)。ですので、成長期や成熟期に入って課題に直面してから対策を打つ、では間に合わず、競争力を落とす要因になりかねません。

運営しているデジタルビジネスがライフサイクルのどの段階にいるのか、そして近い将来にどう変化しそうなのかを予測することが、取り組みのタイミングを考える際のポイントです。これを踏まえ、数あるITサービスマネジメントのプロセス群からどれに優先的に取り組み、効率化を進めるのか、検討することが効果的です。先を見据えてプロアクティブに対策を行うことを推奨します。

私が所属するビーエスピーソリューションズでは、ITサービスマネジメントのスキルトレーニングから、事業戦略に合致したプロセス改革の実行(BPR)、標準ITサービスマネジメントツール(LMIS)の導入による業務効率化・マネジメント強化の実現まで、一気通貫でご支援するノウハウと実績があります。会社のホームページからでも、このブログのコンタクトフォームからでも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。

図:ITサービスマネジメントのグランドデザイン型ソリューション

2016年7月7日木曜日

市場が成熟するにつれて必要となるマネジメント強化

こんにちは、デジタルビジネスの運営コンサルティングを担当している河村です。
今日は、デジタルビジネスの成熟期の特徴について書きます。


事業の成長期を経て、市場自体が成熟化すると、競争が激化します。市場のパイがこれ以上増えない中で各社がシェアを奪い合うため、差別化のための開発や投資コストが増大し始めます(スマホゲームアプリの平均開発コストは、立ち上げ当初の5千万円から、現在では2億円にまで膨らんでいると言われます)。こうなると、いかに高生産性・高収益率を誇っていたデジタルビジネスでも、簡単には利益が出なくなります。

この段階になると、日々の業務を効率化することは引き続き重要ですが、それに加えてマネジメントを強化することが必要となります。

開発面については、リリースの遅れによる機会損失や競争力低下を防ぐために、プロジェクトにおける漏れや取りこぼしを極力なくすことがこれまで以上にシビアに求められます。市場に求められるスピードを確保するため、リソース管理やスケジュール管理などのプロジェクト管理について、担当者に任せっきりにするのではなく、全体で管理・統制を行うことが必要となります。

運用面については、ITサービスマネジメントの取り組みがますます重要となります。事業の成長期では現場の業務効率化につながる改革が中心ですが、成熟期には確実に数字を管理し、ITのパフォーマンスを改善し続け、利益を創出するためのマネジメント改革が求められます。ビジネスの需要や売上に対して適切なITコストを保つためのITサービス財務管理や、外部委託している業務のパフォーマンスとコストの妥当性を評価・改善し続けるためのサプライヤ管理などが必要となります。

これらの具体的な方法論や効果については、また別の機会に書きたいと思います。

2016年7月6日水曜日

バンダイナムコエンターテインメント様のデジタルビジネス成功事例を無料で聞けます



こんにちは、デジタルビジネスの運営に関するコンサルティングを担当している河村です。
今日は、イベントのご紹介です。

713日開催の「システム管理者感謝の日イベント」で、私がコンサルタントとしてご支援させていただいているバンダイナムコエンターテインメント様の講演が行われます。


講演タイトル:
コンテンツの変化はITの変化 ~バンダイナムコエンターテインメントにおけるデジタル変革~

講演内容:
移り変わりが激しいと言われるエンターテインメント業界。取り扱われるコンテンツも、過去幾度となく激しい変化が起こっています。コンテンツが変わればビジネスモデルが変わり、それに伴ってIT側も変革を求められます。 コンテンツが変化した際に、ITを扱うシステム管理者はどのように対応したのか。変化に対応するため、システム管理者は日々どのように備えているのか。本セッションでは、過去の事例を基にご紹介致します。


ビジネスモデルが変化する中での、IT側がデジタル化に対応するうえでの苦労話や成功に至った経緯をお話しいただく予定です。デジタルビジネスのパフォーマンス向上にITサービス担当者としてどのように貢献すべきか検討中の方は、是非ご来場ください。

お申し込みは以下より受付中です。
http://www.sysadmingroup.jp/kakikosyu2016/

来週ですので、お早めに!


2016年6月23日木曜日

デジタルビジネスの成長にあわせ増大する運用の負荷

こんにちは、デジタルビジネスの運営に関するコンサルティングを担当している河村です。
今日は、デジタルビジネスの成長期の特徴について書きます。

図:デジタルビジネスのライフサイクルとITの課題


前回も書きましたが、立ち上げ期はスピード優先で良いものの、事業が順調に成長すればするほど、運用業務の課題が急速に大きくなるのが、ITがビジネスと融合しているデジタルビジネスの特徴となっています。

デジタルビジネスの場合、事業が成功して需要が増えれば増えるほど、日々のトランザクション数やアクセス数も爆発的に増加します。これに対応するため、頻繁にITインフラの増強やアップグレード対応を行いますが、それに比例してその後の日々のオペレーションや保守対応も増加します。

また、デジタルビジネスは立ち上がってからも継続的に改善を行うアジャイル型の運用となります。事業の差別化のために毎週のように新機能追加や機能強化の開発・変更・リリースを行うことになります。これを繰り返した結果、システム規模はみるみる拡大し、同時に複雑化も進みます。結果的に担当業務は細分化し、様々な技術が部分最適に活用され、属人化が進みます。

業務をアウトソーシングする際にも問題が発生します。個別のサブシステムごとに異なるベンダーに開発・保守を委託している場合、システム間をまたがる問題が発生した際には常に社員が間に入って調整をすることになります。しかし、システムが複雑化し業務の属人化が進めば進むほど、全体を理解できる人が減るため、トラブルが多く発生したり、復旧に多くの時間と工数を要したりするようになります。

こうして全体でのナレッジ共有の必要性が顕在化します。しかし、担当者やベンダーに依存した部分最適な運用プロセスやルール、ツールが一度定着してしまうと、情報共有も簡単ではありません。情報共有のための管理工数が膨らむことになり、結果的に定着化せず形骸化してしまいがちです。

このようなことが積み重なり、デジタルビジネス運営の有効性・効率性は大きく低下します。運用業務の見直しのタイミングです。事業の成長・拡大を支えるためのスピードと柔軟性を確保するには、ITサービスマネジメントを取り入れたプロセス標準化・最適化を行い、業務効率化を推進することが重要となります。

注:ITサービスマネジメント=ビジネスの需要に適したITサービスを効率よく提供および管理するための方法論

ITサービスマネジメントについては、また別の機会に詳しく書きたいと思います。